九州大学附属図書館にて開催されたシンポジウム「図書館と社会融合:社会に開かれた情報資源」のうち「セッション3:図書館とディベート」(2021年12月6日開催)セクションに、言語文化研究院・井上奈良彦研究室の学術研究者や院生が登壇しました。
このシンポジウムは、社会に開かれた情報資源の拠点という図書館の役割を再検討するものでした。「図書館とディベート」という組み合わせのテーマは、恐らく日本で初めて本格的に議論されたのではないでしょうか。
報告者の一人である当研究室学術研究者の久保健治は、ディベーターの証拠資料収集について、図書館がデータベースのような大きな役割を担ってきたことを話しました。インターネットの普及により、図書館それ自体や蔵書量の少ない地方在住のディベーターも豊富な証拠資料へのアクセスが可能になったという利点もある一方、コンテクストを無視した資料収集が増える弊害もみられます。ネット中心の証拠資料収集(これはディベーターのみならず情報を収集する全ての人に言えるでしょう)が主流になる中、図書館の存在意義は「偶然性」である、と久保は考えます。つまり、図書館へ足を運び、目的の本の近くに配置された目的とは違う本との出会いにより、新たな気づきや視点を得られるということです。
司会を務めた附属図書館職員/当研究室博士後期課程の上土井宏太は、図書館では関連する分野の本を同じ場所に配置しており、実際に本棚に行って関連する本を見つける「ブラウジング」に重きを置いていることを説明しました。このような図書館の創意工夫が、ディベート活動へ繋がっています。
各報告の後、討論セクションに登壇した当研究室学術研究者の加藤彰は、ディベート(とりわけ即興型)では短時間のプレゼンテーション、講評、ファシリテーション等様々なスキルが養われる活動であり、未来の教育の先取りとしての側面があることを話しました。ディベートには形式・論題・時間・審査員等、多くの準備しなければならない要素があり、ディベート教育の充実は高校の教員や図書室司書の方々によって支えられている点に言及しました。また、ディベートの論題を高校の授業で取り上げることで、その論題に関わる当事者(例えばセクシュアルマイノリティの方々等)とのつながりが生まれ、より理解を深められる点が大事であるとも述べました。近年は「ヒューマンライブラリー」という社会的マイノリティ当事者が「本」として自身の経験を語る取組みもみられます。
このように考えてみると、ディベート活動と「社会に開かれた『知』としての『図書館』」は密接な関係を有していることを実感させられます。ディベートのためであれ、レポートや論文執筆のためであれ、インターネット検索による情報収集に頼りがちな今、改めて図書館の存在意義を再確認するシンポジウムとなりました。